【インタビュー企画/Fスポンサーズ】ご縁を大事にしてFリーグと一緒に盛り上げていきたい(株式会社ミカサ東京支店・後東誠司氏)

Fリーグのスポンサー企業を訪問し、担当者に話を伺うインタビュー企画「Fスポンサーズ」。今回は、MIKASA(株式会社ミカサ/以下、ミカサ)を訪ね、東京支店・スポーツ用品本部国内営業部次長の後東誠司さんに話を聞きました。

ミカサは、Fリーグ初年度の2007シーズンから2014/2015までの8シーズン、オフィシャルボールスポンサーを務め、今シーズン、9年ぶりに契約を結び公式試合球を提供しています。公式試合球『ALMUNDO』は、5月のカップ戦とリーグ戦、および女子Fリーグで使用され、特に女子はフットサルオリジナルのデザインが採用されました。

今回はファン・サポーターのみなさんがなにげなく目にしている「MIKASA」のボールについて、後東さんに詳しくお伺いして、その思いをお届けできたらと思います。

 

■Fリーグの課題解決策を共に探る

──後東さんはいつからFリーグを担当されていますか?

今シーズンからです。以前、ミカサがFリーグに公式試合球をご提供していた時代は上司が担当していたので、私は隣で見ていたような感じでしたが、Fリーグのことは知っていましたし、当時から会場で試合を見ることもありました。

 

──2007年のFリーグ創設時もご覧になっていたんですね。

そうですね。お客さんが多くて熱気がありましたし、すごく華やかなイメージがありました。セントラル開催には何度か足を運んだことを覚えています。

 

──フットサルの印象はどうでしたか?

フットサルが脚光を浴びていることが印象的でした。日本サッカーリーグ時代からサッカーを見ていたので、Jリーグが始まった時の「始まったんだ!」という興奮と一緒で、フットサルもこういう時代が来たことを実感しました。

■Fリーグ初年度から公式試合球を提供

──ミカサはバレーボールのサプライヤーを務めてきた印象も強くありました。バレーボールも、アリーナ競技として盛り上がりを見せていましたよね。

まさに盛り上がっていましたね。ただフットサルも、今から始まるんだという高揚感がありましたし、私たちも、どれだけボールが売れるのかという期待はありました。

 

──そこから9年間、公式試合球を提供するなかでボールも進化していきました。

商品として毎年、新しいものを開発できたわけではないですが、販売は続けてきました。Fリーグにボールを提供するなかで特に意識したことは「色」でした。最初は水色、黄色、ピンクの3色でしたが、会場によってはスポーツコートを敷いていたり、いわゆる体育館の床であったり、フロアになっていたりして、会場ごとに見え方が違いました。会場によっては見づらいというご意見もいただきながら変更を加えていきました。

 

──競技をする上では視認性が大事だったんですね。

そのことはすごく言われていました。当時のボールは「ボラーレ」というのですが、サッカーで使っていたデザインではなく、オリジナルで作っていましたからね。

■「公式球」となるための様々な検定がある

──フットサルとサッカーでは、ボールのどんな点が異なりますか?

一番の違いはバウンドを抑えている点です。2mの高さから落として、最初のバウンドが50cm以上65cm以内という規定があるので、サッカーボールと似たような作りではあるのですが、弾みを抑えるためにチューブの中に綿が入っています。

 

──綿を使っているんですね。

普段、見ることはないと思いますが、ボールの内側で使っているゴムチューブの中に入っているんです。サッカーよりも跳ねない構造になっている理由の一つですね。

 

──そうなんですね!

サッカーボールの場合は、「糸巻き」と言って、チューブを変形させないように糸をぐるぐるに巻いて丸みを保ちながら、チューブ自体の耐久性も維持しています。その上に人工皮革を貼るという作り方です。バレーボールもそうして作っています。フットサルボールは糸を巻いていないです。

 

──先ほどの「バウンドが65cm以内の規定」はどのように検査するんですか?

規定に入っているか検査する装置が本社にあります。2mの高さからボールを落とすのですが、カメラで撮影しながら、1回目のバウンドが何cm、2回目が何cmといった具合で確認します。そのような装置は、様々な種類がありますが、バウンドが何万回もつか、真球度が規定に入っているかなどの検査機器です。

 

──すごいです……。いわゆる外周が62〜64cmという大きさや400〜440gの重さということだけではなく、あらゆる規定があるんですね。

1つのボールを開発するために様々な検査、検証をしていますし、そのためのスポーツ用品開発部は、品質を確認する部署や品質保証に関するグループなどを含め、20〜30人くらいで細かく分かれています。

 

──検定を通すのも大変そうです。全球チェックするのですか?

はい、その中の数球を公益財団法人日本サッカー協会さんなどにお送りして、そこで確認していただく流れです。検定マークが付く商品は協会の許可を得ないといけませんので、現物を提出して確認を取るという方法です。

■公式試合球「ALMUNDO」のこだわり

──現在Fリーグで使われている「ALMUNDO(アルムンド)」はどんな特徴ですか?

一番はボールを“見やすいデザイン”にしていることです。選手がプレーする際に、ボールの回転がわかりやすくなるように意識して作っています。
こちらのボールは全国高校サッカー選手権大会の公式試合球でも使われているもので、同じデザインを採用しています。世間のみなさんに知ってもらえているデザインを使うことで、フットサルの方々にも認知してもらえるようにと考えてFリーグでも使用していています。

 

──サッカーと製造方法なども同じなのでしょうか?

大きな違いは最後の縫い方が異なります。サッカーは外側を貼っていますが、フットサルは海外の工場の職人さんが一つずつ手縫いです。手縫いならではの柔らかみを出せるのが特徴ですね。

 

──手縫いは時間もかかりそうですが、こだわりの一つでしょうか。

今はミシンで縫うボールもたくさん販売されていますが、フットサルの検定球は手で縫っています。職人も、一人あたり1日に2〜3個くらいしか作れないようです。日本だと人件費的にも難しいですね。それでも、現時点ではミシンやマシンで縫うよりもいい商品を作れるという判断です。とは言え、職人さんの数も減っているようなので、今後は難しくなってしまうかもしれません。

 

──ミシンだと硬くなってしまうんですか?

ミシンの場合、生地が頑丈だといい具合に針が通らないんです。そのため少し柔らかめの生地を使うため、ボールの耐久性は弱くなります。一方、手縫いであれば、一つずつを手で合わせながら縫えるメリットがあります。

 

──余談ですが「ボール」って実は「完全な丸」じゃないんですよね?

そうですね(笑)。実際には「32面体」です。丸くするためには、五角形と六角形の組み合わせの32面体が一番いいと言われていますので、他社さんを含めて、フットサルやサッカーボールはこの構造が多いですね。
最後の縫い目のところは、何度見ても理解できないくらいすごい技術です。普通、縫い目が外に出そうですが、最後の最後にうまく処理をして内側にもっていくんです。見る度に職人さんの技術にうなっています(笑)。

 

──それと、個人的にも空気の入れ方には毎回、苦戦します。Fリーグなどではもちろん規定の空気圧がありますが、いい感じの硬さにするのが難しくて……。

それはお客様のあるあるかもしれないですね(苦笑)。使い方次第では「変形してしまった」という声をいただき、そのボールを見てみると内圧が1気圧以上も入っていることがあります。推奨内圧は0.6気圧なので、入れすぎてしまっているケースですね。
そこについては、説明書だけではなく、お客様に適した内圧で使っていただけるようなご案内を心がけています。それに、Fリーグなどでも使用いただいていますが、圧力設定機能付きの電動エアーポンプがお勧めです。それがあれば空気を入れて、内圧を計測して微調整する必要がなく、0.6気圧ジャストで入ります。

 

──Fリーグの会場などでリーグの方が入れているのを見たことがあります。空気がブイーンと入って、設定した内圧になると止まるというアレですね。

そうです、それです(笑)。

 

──めちゃくちゃ便利だと、担当の方が話していました。それに、手で入れると、穴の破損があるという声も聞きます。

それもお客様から指摘を受けることが多い部分ですね。ボールで一番壊れやすいのがその「ヘソ」です。「バルブ」とも言いますね。空気を入れる針を刺す際に、石鹸水や専用の潤滑剤を付けることを推奨しており、そうすることで痛まないのですが、毎回それをされる方は少ないかもしれません。ぜひ、潤滑剤の使用をお勧めします(笑)。それに、フットサルだけではなく、サッカーやバスケ、バレーボールなどそれぞれの競技で推奨される内圧は異なりますから、電動エアーポンプを使うと、適切な硬さで利用しやすいかもしれません。

 

──勉強になります……。ただ、お話を伺ってきたように、ていねいに作り上げられたボールを扱う選手たちからも「アルムンドはすごく蹴りやすい」という声をよく聞きます。

ありがたいことに、私たちも選手の声をいただいています。一方で、「もっとこうしてほしい」といったご意見をもらうこともあります。すべての選手にとって最適な1球を生み出すことは難しいですが、できるだけ意見を採用して開発しています。

■お客様にいいものを選んでいただけるように

──Fリーグ公式試合球の提供はミカサにとっても価値が大きなものでしょうか?

もちろんです。Fリーグ開幕当初から、フットサルボールをFリーグで推してきました。ただ、スポンサーではなくなってからは“推し”がなくなってしまったと言いますか。ボールは引き続き扱っていますが、「Fリーグで使っている」ことの意味は大きいですね。スポーツ量販店などでも当然、公式試合球であるから置いてもらえるケースは増えますし、営業先などで「Fリーグやフットサルの試合で使っていますよね」とご存知の方もいます。
もしかしたら「ボールを蹴る」ことだけで言えば、他にもたくさんのメーカーさんがありますし、デザインなども違いますから、うちだけが選ばれるわけではないと思います。選択肢が多い分、「Fリーグ公式試合球」ということの価値は大きいと感じています。

 

──ミカサのみなさんもフットサルをしているんですか?

やっていますね。広島本社ではフットサル部を立ち上げて活動しているようです(笑)。若い方を中心に、男女ともにプレーされている人は増えていると感じています。

 

──プレーヤーは確実にいるなかで、草の根の活動や多くの子どもたちにボールに触れてもらう機会は今後もすごく大事ですよね。

おっしゃる通りで、サッカーもフットサルもしている人をもっと増やせるように、ミカサとしてできることを考えています。私たちとしては、Fリーグ公式試合球であるミカサというブランドはもちろんのこと、長く、安全に使っていただける機能性を含め、いいものを選んでいただけるような働きかけが大事ですね。フットサルは、屋外コートだけではなく室内で楽しめるものですし、子ども向けのレクリエーションなども積極的に実施できたらということで、リーグや(一財)日本フットサル連盟の方と取り組みを考えています。お子様向けの柔らかいボールなどもあるので、遊びながらボールに触れてもらうような活動もしていきたいですね。

 

──ミカサのボールを通して、フットサル、Fリーグが広がっていくといいですよね。

本当にそう思います。ミカサは、バレーボールやサッカー、ビーチバレーなど、あらゆるスポーツのボールを提供してきましたし、フットサルについても、もっともっと盛り上げたいと考えています。
フットサルは少人数でできますから、会場選びも手軽で、大人からこどもまで楽しめるスポーツです。裾野を広げて、もっと気軽に、もっとたくさんの人がプレーできるようにつなげていけたらいいなと思います。
そして、ミカサとしては、Fリーグの注目度をもっと上げていきたいです。ボールメーカーにできることはあまり多くはないかもしれないですが、一緒になって取り組んでいけたらうれしいです。Fリーグが開幕した当初、私は担当ではなかったですが、上司がリーグの担当者の方と付き合いを続けていました。Fリーグへの提供を終えた後も、(一財)日本フットサル連盟とのスポンサー契約は継続してきましたし、そうしたご縁があり、再びFリーグ公式試合球の契約ができました。今後もそういったご縁を大事にしていきたいと思っています。

 

【取材の詳細】

  • 日時:2023年11月22日
  • 場所:株式会社ミカサ東京支社(東京都)
  • 聞き手:本田好伸、大西浩太郎(SAL)
  • 撮影:本田好伸(SAL)